小休止~夏休みの読書感想~
この夏、世界各地で戦争の火種が起こっては停戦を繰り返す中で、行くはずだったカンボジア渡航も中止。
猛暑も相まって普段以上に読書漬けの日々となった。
1,山崎豊子「暖簾」
丁稚奉公から身代を起こした大阪商人親子二代にわたる奮闘記。
妻が初めて産んだ子が女の子であったことに腹を立てた主人公は、お産の3日後にやっと病院に立ち寄って一言。
「土下座して謝らんかい!」
男尊女卑の時代とはこういうことかと改めてわずかつい最近まで健在であった祖父母の時代のことを想起する。
2,千早茜「あとかた」
夫・妻がいても、子どもがいても、自分は孤独だと彷徨う男女のオムニバス形式の小説。
「子どものおむつの始末さえしたことがない夫に、育児を期待することは辞めた」という一節。
この作家の9年前デビュー当時の作品。
今この夫の姿勢は批判の的となろうが、少し前まではこれがステレオタイプだったということを思い出してハッとする。いまやステレオタイプ、などという言葉すら存続が危うくなっていることを感じて。
3,王谷晶「ババヤガの夜」
先日、ダガー賞を日本人で初めて受賞し話題を読んだ小説。
ヤクザの一人娘と、女用心棒の逃避行という突拍子もない設定。バイオレンス小説といった感じ。
ネタバレになるかもしれないが、この小説を読み終わって最後、自分の「思い込み」に気付く。
男女の役割、当然これは彼であれは彼女だろうと思い込んで読んでいたら、最後どんでん返しがくるという内容。ある意味LGBTQの時代を象徴しているとも言える。だからこそ今この小説がダガー賞を受賞したのかも。ただこれが成り立つのは突拍子もないもない設定で、完全フィクションだとわかる設定だからこそ。今やわかりやすい差別や敵はフィクションの中でしかあり得ない。
4,映画「雪風」。
第二次世界大戦中のあらゆる海戦の第一線に参戦し、必ず帰還してきた実在した駆逐艦の話。
雪風の先任伍長が新人乗組員に言うセリフ
「君は家の跡取りなのか。では生きて帰らないとな。」
あの時代、こんな発言をしただろうか。
戦艦大和出撃の命令の会議で「勝ち目のない戦に、部下七千名の命を命を懸けることはできません」。
当時、思っていても言えたろうか。
ただそういう解釈なくして映画にしても、むしろ非現実的と感じてしまうくらい、戦時中と今は理解し得ない隔絶がある。その時代に忠実なセリフを主人公に言わせたことろで、感動どころか、反発と嫌悪が残るだけだ。
しかし、その理解不能とも思える隔絶は、ともすると繰り返す。
歴史は繰り返す、とはそういうことだろう。だから二度とこのような惨禍が繰り返さぬよう語り継がねばならない。
8月のNHKスペシャルドラマ「八月の声を運ぶ男」の一シーン。
阿部サダヲ演じる原爆被害者が体験談を聞き取りにくる記者に向かって「こんな話(被爆体験)、誰も聞きたくないでしょう」
記者は答える。「聞かねばならんのです。聞きたくなくとも、聞かねばならんのです・・・」
※上記セリフや内容はあくまで個人の感想とおぼろげな記憶を頼りに記載しています。