十三と云う街
大阪に「十三」(ジュウソウ) と呼ばれる下町がある。大阪市の北部に位置し、淀川の北岸に広がる大阪特有の極々庶民的な街である。東京の下町とは随分違い、 大阪南の下町ともまた違う。誰の歌だったか忘れたが昔、「十三の姉ちゃん」 と云う歌が流行ったことがある。所謂、歌になる程に独特の味を持った街と云うことであろう。
その十三に知人を尋ねた日のこと。夕方知人宅に向かって表通りから少し入った路地を歩いていると、 人目もはばからず立ちションをしている男がいる、余りいい気はしないが道は一本、仕方なくその人の横を通りかけると、 「今晩は・・」と声がする。 アレッと思って回りを見回すが誰も居ない、立ちションの彼と私の二人である。と云うことは・・・彼が私に「今晩は・・」と挨拶したらしい。全く見も知らずの人であり、しかも立ションをしながらである。普通、 挨拶をされたらあいさつを返すが、流石にこの時は引いてしまい、黙って通り過ぎた。
知人に合うなり、その話をした。「今おかしな人に合ってん、 十三には変わった人がおるナー・・」と、すると、その知人、「何言うとんねん。 十三の人は皆そうやで。知る知らないに関係なく、朝顔を合わせれば、お早うございます、 夕方顔を合わせれば、今晩は・・、お休みなさい・・ 。皆が声を掛け合う。若い人でも皆そうするでー」と云う。「ほんまかいな・・ 」、「ほんまや・・」、「顔見知りでなくても?」、「そうや、顔見知りでなくても。 中には、昨日寝れなくてな・・等と話し掛ける人もいる・・」 とのこと。
どうも、おかしな人は小生の方であったらしい。彼から見たら、 立ちションしながらでもわざに挨拶したのに知らん顔で通り過ぎるなんて・・・、と云うことになる。
その話を聞いたとたん、立ちションの彼(40歳前後)に何とも云えない親しみを覚え、引き返して「今晩は・・」と挨拶をしたくなった。と同時に、 十三と云う街が何となく好きになった。
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